『ここが変わった!「聖書協会共同訳」』浅野敦博ほか著(日本キリスト教団出版局、2021、¥1,200-税別)

聖書翻訳とは聖書の時代といまを結びつける作業。その大切さがしみじみ伝わる、良い学びの書です。

気鋭の聖書学者6名による、とてもわかりやすい一方で、とても刺激的な聖書の学びの本です。

ギリシア語は読めない。でも、ギリシア語をきちんと踏まえて、言葉の意味をしっかりとつかみながら、新約聖書を理解したい。しかも、現在も並行して使われているポピュラーな日本語訳聖書(新共同訳、新改訳第3版、新改訳2017など)と比較しながら、言葉の深い意味を探求してゆきたい。そう願う人にとっては、まさに痒いところに手が届くような、そしてとても面白い本です。

例えば、洗礼者ヨハネが飲まなかったのは「ぶどう酒と『強い酒』」と従来は訳されていたのが、実は「ワインとビール」だった可能性など、楽しい話題もあります。また、ハンセン病差別、沖縄差別、性差別、同性愛者差別、ユダヤ人差別などの原因を与えたり加担したりしてきた翻訳の問題点とその修正など、非常に深い問題についての議論も収録されています。

このようにして、イエスの生きていた古代の社会状況・文化・風習などをしっかりと踏まえている一方で、私たちが生きる現代社会の問題にもどのように対峙してゆくのかを視野に入れながら、翻訳というものが行われてゆくことがよくわかります。つまり、聖書翻訳とは、イエスと私たちを繋ぐ大切な仕事なのだと認識させられるのです。

その一方で、この本が聖書協会共同訳の単なる「説明書」ではないことに戸惑いを覚える読者もいるかもしれません。なぜなら、この本には、すでに出版されている聖書協会共同訳に対する批判的な意見や、別の翻訳の可能性についても述べられているからです。「改悪」「改善」といった言葉が躊躇なく使われています。また、1つの結論に導くのではなく、いくつかの解釈の可能性を示して、読者自身が考えることのできるように、開かれた問いを示しておられる著者もいます。

2018年にこの聖書協会共同訳が出るまで、多くの研究者が長い間苦労し、実に多様な解釈・見解が交錯した末に、最終的には「一つ」の本にしなければならないことに伴う痛み、悩みがあったことを漏れ聞いています。

読む人はその痛みを想像しながら、聖書の世界にまつわる様々な解釈の、まだ自分も知らない大きな広がりの可能性を感じつつ、この本を読むのもまた味わい深いのではないかと思います。

なお、ネタバレになってしまいますが、この本の末尾にある著者代表のお言葉によれば、聖書教会共同訳をお求めの際には、スタンダード版ではなく、ちょっと重くて値も張りますが、引照・注付きの中型聖書(旧約聖書続編付き6,100円+税、続編なし5,300円+税)をとのことです。聖書協会の回し者だからではなく、聖書を深く「学」ぶには引照と注があってこそだからです。

ちなみに筆者は、発売時の特価で買いましたので、ちょっと得をしています(蛇足)。

豊富な内容にもかかわらず、コンパクトにまとまっていて、すぐに読み終えることができます。でも、とても良い学びになります。聖書読みの人にはもちろん、教会での学習会のテキストとしても最適ですので、この本、おすすめします。

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