『アイリッシュマン』(The Irishman)2019年作品

監督マーティン・スコセッシ、出演ロバート・デ・ニーロ、アル・パシーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルが描くギャング映画とくれば、もう大体絵柄は察しのつくようなものだ。

人殺しに次ぐ人殺し。そんな場面の連続が気に入るかどうかは観る人の好みによる。ただ、この映画は単なるバイオレンス映画ではない。物語は主人公たちが次第に年齢を重ねてゆく姿に克明に描き出し、私たちはその人生の軌跡を凝視することになる。

物語の冒頭近くで、主人公フランクは娘に暴力を振るった商店主に報復し、二度と仕事ができなくなるくらいに痛めつけるが、このことが彼の一生を象徴している。

結局、彼にとって、全ては自分の家族を養うため、娘たちに惨めな思いをさせないために、娘たちを守るためにやっていたことなのだ。そういうやり方しか彼には愛を表現する方法はなかった。

しかし、彼の愛は報われない。娘たちが望んでいたのは、羽振りは良くなくても、平凡な幸せだったのだろう。累々と横たわる死体を踏み越えて自分たちが育てられ、生きてきたと思うのは、身の毛もよだつような気持ちであっただろう。

殺害であれ、自然死であれ、フランクの周囲の人間は皆姿を消してゆく。全ての人が忘れられてゆく。一体彼の人生は何だったのだろうか。また、私たちの生きている間のドタバタに、一体どんな意味があるというのか。

大きな問いの残る、味わいの深い映画だった。