『うつに非ず うつ病の真実と精神医療の罪』野田正彰(講談社、2013、¥1,300-(税別))

「疾病化」によって再起不能にさせられる日本人に対する、骨太の人生観に貫かれた警告の書

『大笑い!精神医学』が精神医学の問題点を指摘する入門編とすれば、もうワンランク上のしっかりした内容を求める人向けの(しかし専門家以外の人にもわかりやすい)本と言えば、この『うつに非ず』でしょう。

鬱病という病名を100%否定するわけではありませんが、それが現在は製薬会社を中心とする利権集団が作った簡単な問診票で「診断」されてしまうことのおかしさ、製薬会社からリベートを受けている精神医療界の各種学会が生み出す絶望、クリニックが増えるほど病人も増える現実などを、資料を紹介しながら実証してゆきます。

そして、つまるところ、心の病というものは人の生き方を問うことと密接に結びついているのであり、ろくに臨床的な訓練も受けていないにわか仕立ての心療内科クリニックなどの安直な投薬治療などで改善するものではないということを訴えています。しかし、その代わり、患者とされている人の直面している現実にじっくりと時間をかけて耳を傾け、その人の抱えている問題点を真に理解し、解き明かしてゆくことで、その人は自然に治癒してゆくということも明らかにしています。

重要なキーワードは「疾病化」でしょう。それは「社会的な問題を、個人の疾病の問題にすり替える善意の政治・経済活動のこと」(p.70)です。「社会環境に病理があるのに、個人の遺伝子や心身の問題に転嫁して止まない。しかも、それが人々のためになっていると参与者は信じている」(同)。本来立ち向かうべき社会的な問題が個人の病気の問題に矮小化されてしまう。そのことで社会構造の問題は放置されるどころか、ますます悪いものになり、更に病気は増えるという悪循環を指摘しています。

また、私が最もガツンと来たのは、「薬に振り回され、自分が何者か分からなくなる人生」と「こんな会社はよくない、こんな社会のあり方はよくないと苦しみもがいている人生」と、どちらがましなのか、という問いかけでした(p.184)。前者も後者も結局は苦しみなのであり、最悪の帰結は死ですが、そっちの死に方が良いとあなたは思うのか(p.185)。人生は苦しみの自覚なしに生きることがありえないのではないかと問いかけているのです。

どのみち「ルンルン」で生きてゆくことはあり得ないのであり、自分の苦悩を自分で引き受けて生きる以外には無いということでしょう。そのようなことを思わされる、骨太の人生観に貫かれた書でした。

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