『おれは無関心なあなたを傷つけたい』村本大輔著、ダイヤモンド社、2020

見て見ぬふりをする
すべての日本人へ

 原発、震災、朝鮮学校、沖縄の米軍基地問題など、社会問題をネタにして爆笑を引き出す村本大輔さん。その彼から見えた景色を書き留めたドキュメンタリー。ここには村本さんの怒りと悲しみと笑いと愛が溢れている。

 アメリカのコメディアンのネタには人種差別、LGBTQ、地球温暖化など社会問題を取り扱うものが多い。それはなぜかと村本さんがタクシーの運転手に尋ねたとき、帰ってきた答えが「それがあるからだよ」だったという。

 思えば、昨今の日本の地上波テレビのお笑いは、芸人の滑稽な振る舞いや物言い、ルックスを笑ったり、先輩芸人の後輩のハラスメントのような上下関係をネタにしたような、狭い狭い世界に縮こまっている。

 そして、「そこにある」社会の問題など無いことにしてしまい、そこから目を背けさせて、愚民を大量生産するための装置になってしまっている。

 この本は、村本さんが「本物の」コメディを目指して奮闘するなかで、走りながら書かれた実録だ。多くの人が安穏と暮らすために、痛みを負わされている人たちがいる。痛みを見過ごされている人がいる。

 その痛みを彼は笑いにする。オーディエンスは泣きながら笑う。怒りや悲しみで涙を流し、泣きながら笑う。

 涙を流しながら笑っている人たちのことを書いたこの本を読んでいると、読者である私の目も涙で潤んでくる。そして、村本さんこそが真のコメディアンであり、これからも私たちの目を開かせ、笑わせ、刺激し続けてほしいと思う。

 村本さんはつい先日(2022年3月)日本での最後の独演会を東京で行った後、アメリカのたぶんニューヨークに渡る(渡った)はずだ。スタンドアップ・コメディの本場で話芸を磨くのだろう。

 しかし、アメリカから日本にも発信し続けて欲しい。いつか日本に戻ってきて欲しい。そしてこのくだらない軽薄なお笑い文化に革命を起こして欲しい。

 吉本のお笑い文化にどっぷりと漬かり、それがあたりまえだと思っている全ての人に、この本を手に取ってもらいたい。

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